nakayama-holinessのブログ

日本ホーリネス教団中山キリスト教会の公式ブログです。

2023年12月7日:祈祷会の学び(補足)

先ほど終了した祈祷会の学びの補足です

 学びの中でもお伝えしましたが、過去にエステル記について書いたブログ記事を再掲載いたします。

 

*****(2020年9月10日の記事より)*****

後味の悪いエステル記

 個人的な感想ですが、血なまぐさい復讐劇が描かれるエステル記を好きになれません。

 エステル記の物語に、どれくらい歴史的な事実としての核があるのかについては、いろいろと議論があるようですが、現在の形での物語は、明らかにエンターテイメント的な要素が満載です。エステル記のプロット(筋)の中心は、3章で描かれるハマンによるユダヤ民族絶滅の策略が、モルデカイの知恵とエステルの勇気によって覆されていくという大逆転劇です。王に重用され人々が跪き拝むハマンに対して、ユダヤ人であるモルデカイは決して膝をかがめないという描写は、モルデカイによって代表されるユダヤ民族に対して、異教的な環境にあっても神以外のものを拝まない(偶像礼拝をかたくなに拒む)ことを貫くように勧める意図をもって書かれたものです。

 この大きなプロットの中にあって、詳細が実に良くできています。4章で、宿敵ハマンは、王妃エステルの主催する王のための酒宴に招かれて上機嫌になりますが、門のところで、モルデカイが相変わらず自分に膝をかがめないことに機嫌を損ね、家で妻に愚痴を言います。すると、ハマンの妻と、ハマンの友人たち(忖度する人たち?)は、ハマンに対して、王に気に入られていることを利用して、モルデカイの処刑を王に進言するように促します。

 ところが、その夜、眠れない王は、過去の記録を読み聞かせ、かつて暗殺計画を暴いて王を救ったモルデカイに、何も報酬を与えていなかったことを、その同じ記録から知ることになります。そこでモルデカイに栄誉を与えようとする王のもとに、ちょうどモルデカイの処刑を進言するためハマンがやって来ます(夜中に王のもとに来た、ということではなく、翌朝でしょうね)。「王が栄誉を与えようとする者には、何をすれば良いか」との問いに、自分がその栄誉を受けられると考えたハマンは、最大限の栄誉を進言しますが、その栄誉は、自分にではなく、何とあの憎きモルデカイに与えられる、という展開になります。こうした隅々まで行き届いたどんでん返しの描写は、読んでいて(読み聞かされていて)実に痛快だと思います。

 7章では、さらにはハマンの悲劇が続きます。エステル主催の酒宴に招かれたハマンは、王の面前でユダヤ民族絶滅計画を暴露され、最終的に、モルデカイの処刑用に用意した柱に吊るされて処刑されることになります。もちろん、この逆転自体、すでに決して後味の良いものではありませんね。

 8章では、ユダヤ民族絶滅計画が覆されるという、メインのプロット上の逆転が描かれます。王の印の指輪を委ねられたハマンが、かつて王の名によって正式に発布したユダヤ人絶滅令は、同じ指輪を代わりに委ねられたモルデカイによって無効にされます。ただ、一度王の名によって発布された方は、決して取り消されない、ということですので、「前のやつは無し」というような単純なことではないようです。何れにせよ、新たな法では、その絶滅命令と全く同じ表現で、ユダヤ民族の敵に対する絶滅命令が、しかも同じ実行日に行われるように発布されます。

 最初の絶滅令の発布は第1の月ですが、「プル」というくじによって第12の月に実行されるように決定されていて、その12ヶ月という期間が、ストーリーの展開のための時間を確保しているわけです。エステルがハマンの策略を暴いたのは第3の月ですから、十分余裕で間に合った、ということですね。

  実際には、新しい法によって古い法が上書きされることにより、第3の月に発布された新たな法によって、人々はユダヤ人に対する絶滅命令が事実上無効になったと判断することになり、12ヶ月かけて準備を進めることになっていたユダヤ民族絶滅計画は、その時点でストップし、今度はユダヤ人が敵の絶滅の準備を始めることになります。

 さて、9章ではユダヤ人による敵の絶滅が実行される様子が描かれます。命令の実行日には、首都スサで500人が虐殺され、ハマンの10人の息子が処刑されます。首都のスサ以外では、ユダヤ人が敵対する者を75,000人虐殺したと書かれていますので、アダルの月の13日の1日だけで75,500人が殺された計算になります。さらにエステルは同じ命令を翌日にも延長するように王に願い出て、翌日は300人が追加で虐殺されます。合計75,800人です。これに処刑されたハマンと10人の息子を加えると、75,811人。

 この復讐劇は、果たして聖書の描く神の姿に照らして、どのように評価すれば良いのでしょうか? 旧約聖書は、古代メソポタミア文明の誇るハンムラピ法典の影響下にあって、有名な「目には目を、歯には歯を」という精神を受け継いでいます。これは、一般的には、復讐を命じた残虐な法のように誤解されていますが、実際には、報復が過剰になされないようにするために、同じ程度の害に止めることを命じたもので、「同害報復」(タリオ)として知られているものです。つまり、報復に際して、人間の憎しみや暴力が暴走しないように、歯止めをかける目的を持っているのです。

 旧約聖書では、この「同害報復」は出エジプト記21章22-27節に出てきますが、そこでは、奴隷の主人が自分の奴隷の目を潰したり歯を折った場合、基本的には奴隷は主人の「所有物」と見なされている時代ですので、そのままでも済ませられそうですが、聖書では、その目1つのゆえに、またその歯1本のゆえに、奴隷を自由にすることが命じられています。そこには、エジプトで奴隷だったイスラエルを解放した神の憐れみ深さが反映されているのです。つまり、聖書は、ハンムラピ法典の同害報復をさらに進めて、憐れみ深い律法として提示し直しているのです。

 新約聖書では、マタイの「山上の説教」の中で、主イエスがこの同害報復に言及しつつ、それを上回るものとして、復讐の禁止と敵への愛を教えています(5:38-42, 43-48)。主イエスは、出エジプト記がハンムラピ法典の精神をより徹底させた方向性を、さらに進めているわけです。

 このように聖書全体から見たときに、エステル記の民族全体の復讐劇は、山上の説教によって相対化される必要があると思います。

 エステル記には神が登場しませんが、王が絶妙のタイミングで不眠になり、過去の記録を読ませたことや、モルデカイへの褒美を考えているところに、絶妙のタイミングで、モルデカイの処刑を願うハマンが来るなど、「摂理」として神の働きが(間接的に)描かれている、ということは言えるでしょう。それと同時に、ユダヤ民族に敵対するものを組織的に虐殺して排除することは、(少なくとも直接的には)神が命じていない、と読むこともできるでしょう。神が直接登場しないエステル記は、私たちの信仰のあり方を考える重要なヒントを提供している、と言えそうです。

*****(ここまで過去の記事)*****

 

現在の状況について

 10月7日に起こったハマスイスラム武装組織によるイスラエル南部襲撃事件は、イスラエル側に1000人を超える死者を出す大規模かつ残虐なものでした。その報復として、イスラエル軍は圧倒的な軍事力による爆撃と地上侵攻によってガザを徹底的に壊滅させようとしており、現在までにパレスチナ人側の死者が1万人を超えたと報道されています。ハマスの壊滅が口実ですが、実際にはガザ地区そのものを破壊し、パレスチナ人を排除してしまうことを目的にしていることが疑われます。イスラエル初代首相ベン・グリオンが建国当初主張していた、パレスチナの地を100%ユダヤ人の土地にすることが、一歩一歩現実に近づきつつある、ということなのでしょう。

 現在の状況は、10月7日の出来事から考えたのでは理解できません。ハマスおよびイスラム武装組織による残虐な襲撃は、確かに彼らが仕掛けた戦争であり、法のもとで厳しく裁かれ処罰されるべきものです。しかし、なぜそのような事態になったのかについては、そこに至るまでのイスラエル建国前後の状況から始まる経緯を考慮に入れる必要があります。歴史的な経緯を丁寧に説明した記事として、以下のものを推奨します(週刊誌のタイトルと特集名の下に、中黒・で特に重要な記事をピックアップしました)。

 

①『ニューズウィーク日本版』2023年10月24日号「特集:新・中東戦争」18-31頁。

 ・マハ・ナサール「なぜガザは監獄になったのか:イスラム原理主義組織ハマスを生み出したパレスチナ自治区ガザ地区の過去と未来」24-25頁。

 

②『ニューズウィーク日本版』2023年11月28日号「特集:歴史で学ぶイスラエルパレスチナ」18-33頁。

 ・前史:パレスチナを巡る苦難の歴史を知る、18-21頁

 ・現代史:イスラエルハマスの奇妙すぎる関係史、22-27頁

 

③『エコノミスト』2023年11月21日・28日合併号「特集:絶望のガザ」18-42頁。

 ・福富満久「虐げられてきた中東の反乱:欧米諸国は『恥を知れ』」18-22頁

 ・福富満久「欧米に蹂躙され続けてきた中東」23頁

 ・インタビュー:岡真理「イスラエルアパルトヘイト国家:南アの過去より格段の抑圧と暴力」32-33頁

 ・臼杵陽「イスラエル・『ホロコースト』想起で大規模報復:格下げリスクやハイテク産業に打撃」34-45頁

 ・インタビュー:高橋和夫イスラエルの行為は『占領と抑圧』:世界が傍観、ガザ地区の暴発は必然」38-39頁

 

*日本の報道は、幸いなことにガザの惨状とこれまでのイスラエル占領政策について、丁寧に伝えていますが、アメリカ国内では親イスラエルの視点での報道が多いようです。CNNといえども(ケーブルテレビの放送です)、イスラエル軍に従軍して報道する場面や、たびたびイスラエル軍関係者のインタビューが行われるなど、気をつけないと情報が偏ることが懸念されます。もちろん、ガザの状況を丁寧に伝えるレポートもあり、全体としてはバランスをとっているのですが、結構な頻度でイスラエル軍の司令官や親イスラエルの「識者」などが番組のインタビューに答えていますので、どの視点で語っているかに注意が必要です。BBCは(こちらもケーブルテレビです)、ハマスを「テロリスト」と呼ぶことは一方の側の視点に肩入れすることになるとして、ハマスに対して「テロリスト」というラベルを貼ることを拒み、自覚的に中立的な視点を取っています。報道内容も、ガザ地区内部からのレポートもかなり多く、状況を丁寧に伝えているように思います。

*日本ホーリネス教団のルーツである中田重治によるホーリネス運動は、19世紀末の米国におけるシオニズム運動(パレスチナユダヤ人国家を建設することを目指す運動)の高まりを背景に持ちますが、この高まりは、19世紀に英国人ジョン・ネルソン・ダービーが考案したディスペンセーション主義という特殊な(歪な)終末論のシナリオに遡ります。この終末論が米国で大流行して、その視点による解説を付した『スコフィールド引照聖書』がベストセラーになったことで、北米でキリスト教シオニズムが誕生します。中田重治は、伝道者としての行き詰まりを打開するため、アメリカでディスペンセーション主義の牙城の一つだったムーディー聖書学院に短期留学した際にこの思想に感化されたようです。彼はこのキリスト教シオニズムを引っ提げて帰国し、日本に紹介しましたので、ホーリネス運動をルーツに持つ私は、なんとかこの危険な思想を一掃したいと願っています。

 

 

宗教法人日本ホーリネス教団中山教会・ 〒273-0024 千葉県船橋市二子町604-1・ 牧師:河野克也 Katsuya Kawano